楽しい仕事で力尽きた
技術的な仕事が好きだ。技術調査は特に楽しい。新しい技術を調べて、比較して、評価する。没頭しているうちに時間が過ぎる。
あるプロジェクトで、技術選定に全力を注いだ。調べれば調べるほど面白い。深掘りすればするほど理解が深まる。楽しくてやめられなかった。
でも、技術選定はプロジェクトの入り口にすぎない。本当のメインは、その後の設計や実装だ。技術選定で力を使い果たしてしまい、本番に入る頃には疲弊していた。本来一番集中すべきフェーズで、エネルギーが残っていなかった。
楽しいからこそ止まれない
一般的にバーンアウトというと、辛い仕事を頑張りすぎるイメージがある。でも、楽しい仕事でもバーンアウトは起きる。むしろ、楽しいからこそ止まれない。
辛い仕事なら「そろそろ休もう」と思える。でも、楽しい仕事は「もう少し」「あと少し」が続く。休む理由がない。プライベートの時間を削っても苦にならない。でも、それは続かない。
バーンアウトの本質は、回復のないまま消耗が続くことだ。楽しいかどうかは関係ない。エネルギーは有限で、使えば減る。楽しさが消耗を隠してしまうことが、楽しい仕事のバーンアウトの厄介なところだ。
全体を見据えてペースを配分する
近くのゴールに集中することは大事だ。目の前のタスクに全力を出す。それ自体は悪くない。
でも、全体を見据えていないと、ペース配分を間違える。マラソンで最初の10kmを全力で走ったら、残りの32kmは走れない。プロジェクトも同じだ。序盤で力を使い切ると、本番で力が出ない。
大事なのは、「今がどのフェーズか」を意識することだ。序盤なのか、本番なのか、終盤なのか。序盤に全力を出す必要があるのか。本番にどれだけのエネルギーが必要か。全体を見て、今のペースが適切かを判断する。
プライベートを犠牲にしてまで続けるのも、本当にやむを得ないトラブル対応のときは仕方ない。でも、それ以外で常態的にプライベートを削っているなら、ペース配分が間違っている可能性がある。
部下の兆候に気づく
マネージャーとして気をつけているのは、部下のバーンアウトの兆候だ。
厄介なのは、人によってキャパも、消耗したときに出る反応も違うことだ。明らかに疲れている人はわかりやすい。でも、表に出さない人もいる。黙々と仕事を続けて、ある日突然止まる。
意識しているのは、普段との違いを観察することだ。いつもより反応が遅い、発言が減った、ミスが増えた。一つひとつは些細でも、複数の変化が重なったら注意する。
ただ、「手を抜け」と直接言うのは難しい。頑張っている部下に対して、水を差すように聞こえる。代わりに、「ここまでできていればほぼ完成だ」「残りは来週でいい」と、完了の基準を示す方がいいと思う。手を抜けではなく、ここで十分だと伝える。
さらに踏み込むなら、上司が明示的にリソースの配分を伝えることだ。「この作業はあと何時間で終わらせてほしい」「ここで一旦止めて、次のフェーズに移ろう」。全体のスケジュールを見ている上司だからこそ、ペース配分の指示を出せる。本人は目の前の仕事に没頭しているから、全体が見えなくなっている。止める判断は、上司の役目だ。
今のペースは、プロジェクトの最後まで持つだろうか。
楽しくて止まれないことが、いちばん危ない。
1. 楽しい仕事でもバーンアウトは起きる
楽しさが消耗を隠す。辛い仕事より止まりにくい。エネルギーは有限だから、全体を見据えてペースを配分する。今がどのフェーズかを意識する。
2. 部下の普段との違いを観察する
人によって兆候は違う。反応が遅い、発言が減った、ミスが増えた。「手を抜け」ではなく「ここまでできていれば十分だ」と完了の基準を示す。
もう少し深く知りたい人へ
バーンアウト(燃え尽き症候群)の概念は、1974年に心理学者のハーバート・フロイデンバーガーが提唱した。フロイデンバーガー自身がボランティアクリニックで働きすぎて燃え尽きた経験から研究を始めた。
その後、クリスティーナ・マスラックがバーンアウトを3つの次元で定義した。「情緒的消耗感」(エネルギーが枯渇する)、「脱人格化」(仕事や人に対して冷淡になる)、「個人的達成感の低下」(自分の仕事に意味を感じなくなる)。本文で触れた「本番に入る頃にはエネルギーが残っていなかった」は、情緒的消耗感の典型だ。
本文で触れた「楽しい仕事でもバーンアウトが起きる」は、バーンアウト研究の中では比較的新しい視点だ。従来はストレスの多い仕事や対人援助職で研究されてきたが、近年はエンゲージメントの高い仕事(やりがいや没頭感が強い仕事)でも起きることが指摘されている。やりがいが高い分、自分の限界を超えて働き続けてしまい、結果として燃え尽きる。
マスラックらの研究では、バーンアウトの予防には「仕事の要求」と「仕事の資源」のバランスが重要だとされている。仕事の要求(負荷、時間的プレッシャー)が資源(裁量、支援、回復の時間)を上回り続けると、バーンアウトに至る。本文で触れた「プライベートを犠牲にする」は、回復の資源を削っている状態だ。
参考文献
- Maslach, C., & Leiter, M. P. 『バーンアウトの真実』
- Freudenberger, H. J. (1974). Staff Burn-Out. Journal of Social Issues, 30(1), 159-165.