つい同じ人に頼んでしまう

似たような案件があると、その経験がある人に頼みたくなる。話が早いし、安心感がある。言い訳かもしれないが、合理的な理由もある。

案件の数にも偏りがある。ある人とは5つの案件で関わり、別の人とは1つだけ。自然と、5つの案件で関わる人との会話が増える。打ち合わせも増えるし、相談も増える。意図して偏らせているわけではない。業務の構造がそうさせている。

でも、外から見たらどうだろう。案件が1つの人から見れば、自分だけ蚊帳の外に感じるかもしれない。上司がいつも特定の人と話している。自分には声がかからない。公平に扱われていないと感じるかもしれない。

LMX理論

組織心理学に「LMX理論(リーダー・メンバー交換理論)」がある。リーダーは全メンバーと均等な関係を築くわけではない。信頼関係の濃い「イングループ」と、薄い「アウトグループ」が自然にできる、という理論だ。

イングループのメンバーには、より多くの情報が共有され、裁量が与えられ、相談される機会が多い。アウトグループのメンバーには、業務上の指示は出るが、それ以上の関わりが薄くなる。

重要なのは、リーダーが意図してグループ分けをしているわけではないということだ。業務の都合、相性、コミュニケーションの取りやすさ。さまざまな要因が積み重なって、自然にできてしまう。

合理的だから気づきにくい

ここまで読むと、上司側の言い訳に聞こえるかもしれない。「合理的な理由がある」「業務の構造がそうさせている」。確かにその通りだ。でも、理由があることと、放置していいことは違う。

偏りが厄介なのは、合理的な理由があるから正当化しやすいことだ。経験者に頼む、案件が多い人と話す。どれも間違っていない。でも、一つひとつの判断が積み重なると、チーム内に距離の格差ができる。

階層が違えばさらに顕著になる。直属の部下とは話すが、その下の人とは接点が減る。階層が一つ増えるだけで、距離は大きく開く。

しかも、イングループにいる人は問題を感じない。情報も来るし、相談もされる。居心地がいい。問題を感じるのはアウトグループ側だが、アウトグループの人は上司との接点が少ないから、疎外感を感じていても言えない。言えないから上司は気づかない。気づかないから距離がさらに開く。沈黙が格差を固定化する。

偏りが起きることは避けられない。でも、それに気づかないまま放置することは避けられる。

全員と均等は無理だし、すべきでもない

全メンバーと同じ距離を保つのは現実的ではない。案件の偏りがある以上、関わる頻度に差が出るのは仕方がない。無理に均等にしようとすると、業務効率が落ちる。

問題は、業務上の偏りが関係性の偏りに変わることだ。案件の話は多くしても、それ以外の接点がなければ、アウトグループのメンバーとの関係は薄くなる一方だ。

業務の偏りは構造上避けられない。それを補うのが、普段のコミュニケーションだと思う。

頻度よりも「気にかけてもらっている」感覚

案件の数が違っても、1on1の頻度は同じにする。案件で関わらないメンバーにも、「最近どう?」と声をかける。全体の会議で、特定の人ばかりに話を振らない。

ただ、大事なのは頻度を均等にすることよりも、「気にかけてもらっている」と感じてもらうことだと思う。気にかけられていると感じている人は、接点の頻度を気にしない。逆に、気にかけられていないと感じた瞬間に、「あの人とばかり話している」と頻度が目につくようになる。

些細なことでいい。名前を出して話を振る。成果を見ていると伝える。案件の話だけでなく、一言声をかける。頻度を揃えるのは難しいが、気にかけていることを伝えることはできる。

もう一つ意識しているのは、案件を任せるときに「同じ人に頼みがち」なパターンを崩すことだ。経験者に頼むのは効率的だが、新しい人に任せれば経験が広がる。短期の効率より、長期のチーム力を考える。これはボトルネック記事やピーターの法則記事で触れた話とも繋がる。

あなたが今週話したメンバーは、チームの全員だろうか。

声をかけていない人はいないだろうか。

月曜から試せるヒント

1. 業務の偏りは自然だが、関係性の偏りは意識して防ぐ

案件の数が違えば関わる頻度に差が出るのは当然。問題はそれが関係性の格差に変わること。1on1の頻度を均等にする、案件外でも声をかけるなど、業務外の接点で補う。

2. 同じ人に頼みがちなパターンを崩す

経験者に頼むのは効率的だが、新しい人に任せれば経験が広がる。短期の効率と長期のチーム力のバランスを考える。

もう少し深く知りたい人へ

LMX理論(Leader-Member Exchange Theory)は、1975年にジョージ・グレーンとメアリー・ウール=ビエンが提唱した。従来のリーダーシップ理論がリーダーの行動スタイルを一律に扱っていたのに対し、LMX理論はリーダーと個々のメンバーとの関係の質に注目した点で画期的だった。

研究によれば、イングループのメンバーは、アウトグループのメンバーと比較して、職務満足度が高く、離職意向が低く、パフォーマンスも高い傾向がある。つまり、LMXの質が高い関係にあるメンバーは、組織にとってもプラスの結果を出しやすい。

ただし、チーム内でLMXの質にばらつきが大きいと、チーム全体のパフォーマンスが下がるという研究結果もある。イングループのメンバーが恩恵を受ける一方で、アウトグループのメンバーのモチベーションが下がり、チーム全体の協力関係が損なわれる。

本文で触れた「同じ人に頼みがち」なパターンは、LMX研究では「役割固定化」として議論されている。初期に形成されたリーダーとメンバーの関係が、その後も変わりにくい傾向がある。意識的に関わり方を変えなければ、最初にできた距離感がそのまま固定化する。

参考文献

  • Graen, G. B., & Uhl-Bien, M. (1995). Relationship-Based Approach to Leadership: Development of Leader-Member Exchange (LMX) Theory of Leadership over 25 Years. The Leadership Quarterly, 6(2), 219-247.