図の細部にこだわってしまう

資料を作るとき、伝わればいいのに、つい図の細部までこだわってしまうことがある。色の統一、矢印の太さ、テキストの配置。本質的ではないとわかっている。でも、手を動かし始めると止まらない。

他の人を見ていると、もっとはっきりわかる。プレゼン資料の準備で、最初は本気でストーリーの流れを考えている。ある程度固まって余裕が出てくると、瑣末な図の作成に時間をかけ始める。そして結局、最後に焦る。

何度もこのパターンを見てきた。

パーキンソンの法則

イギリスの歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンは、「仕事は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」と指摘した。これがパーキンソンの法則だ。

締切が1週間あれば1週間かかる。3日しかなければ3日で終わる。仕事の量が変わったわけではない。使える時間に合わせて、仕事の密度が変わる。余裕があるほど、本質的でない作業に時間が流れていく。

会議も同じ構造

会議でも同じことが起きる。

時間切れを避けたくて、長めに設定する。1時間の会議を取る。でも、内容に関わらず1時間を使い切ってしまう。話が広がる。脱線する。それでも決まらないことがある。

短くても決まるときは決まる。長くても決まらないときは決まらない。時間を増やしても、成果は比例しない。決まるかどうかは時間の問題ではなく、論点が整理されているか、事前の準備ができているかの問題だ。

80点を100点にする時間で、別の仕事が80点になる

パーキンソンの法則が厄介なのは、余った時間の使い方が「無駄」には見えないことだ。

図の細部を整えるのは、質を上げる行為だ。会議で幅広く議論するのは、慎重な意思決定だ。どちらも悪いことではない。でも、80点を100点にするための労力は、0点を80点にする労力よりもはるかに大きい。

その時間で別の仕事を80点にできたかもしれない。一つの仕事を100点にするより、二つの仕事を80点にする方が、全体の成果は大きい。でも、目の前の仕事を「もう少し良くしたい」という気持ちが、全体最適を見えにくくする。

時間を区切る

対策はシンプルだ。時間を先に決めてしまうこと。

会議は短めに設定するようにした。1時間ではなく30分で設定する。足りなければ延長すればいいが、最初から1時間にするのとは意識が違う。30分で終わらせようとすると、自然と論点を絞るようになる。

資料作成も、「この作業は1時間まで」と決める。時間を区切ると、「どこまでやるか」ではなく「この時間で何ができるか」で考えるようになる。本質的なことから手をつけるようになる。細部は後回しになるが、そもそも細部は伝わるかどうかにあまり影響しない。

ただ、資料作成の難しさは、わかりやすいゴールがないことだ。会議なら「決まったかどうか」で終われる。でも資料は「伝わればいい」のに、「伝わる」の基準が曖昧だ。だから「もう少し良くできるかも」が続いてしまう。時間を区切るのは、この曖昧さに対して自分で基準を作る行為でもある。

完璧を目指すこと自体は悪くない。でも、すべてに完璧を求めると、時間がいくらあっても足りない。時間を区切ることで、「ここまでで十分だ」という基準が自然にできる。

その作業に時間をかけているのは、質を上げるためだろうか。

それとも、時間があるから使っているだけだろうか。

月曜から試せるヒント

1. 仕事は与えられた時間をすべて満たすまで膨張する

余裕があるほど、本質的でない作業に時間が流れる。80点を100点にする時間で、別の仕事を80点にできる。図の細部、会議の脱線。「質を上げている」ように見えるが、全体の成果は上がっていない。

2. 時間を先に決める

会議は短めに設定する。資料作成は時間を区切る。時間を先に決めると「どこまでやるか」ではなく「この時間で何ができるか」で考えるようになる。完璧を目指すより、時間内で最大の成果を出すことを意識する。

もう少し深く知りたい人へ

パーキンソンの法則は、イギリスの歴史学者シリル・ノースコート・パーキンソンが1955年にエコノミスト誌に発表したエッセイで初めて提唱された。パーキンソンはイギリスの官僚制度を観察し、公務員の数が仕事の量に関係なく増え続ける現象を指摘した。これを一般化して「仕事は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する」という法則を導いた。

パーキンソンの法則は心理学的にも裏付けがある。「時間的余裕(slack)」の研究では、締切までの時間が長いと、人はタスクの複雑さを過大評価し、必要以上に時間をかける傾向があることが示されている。また、完了までの時間が長いと、途中で追加の作業を挟みやすくなる。本文で触れた「図の細部にこだわる」のは、まさにこの追加作業の挿入だ。

本文で触れた「80点を100点にする労力」は、経済学では「収穫逓減の法則」として知られている。追加的な投入に対して、得られる成果が徐々に小さくなる。資料の品質も同じで、最初の80%の品質は比較的短時間で達成できるが、残りの20%を改善するには不釣り合いな時間がかかる。

会議に関しては、ジェイソン・フリードとデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンが『小さなチーム、大きな仕事』で、会議のデフォルトを短く設定することの効果を論じている。彼らは「会議は有毒だ」と主張し、会議時間を半分にすることで議論の密度が上がると指摘している。本文で述べた「30分にすると自然と論点を絞るようになる」は、この主張と一致する。

参考文献

  • Parkinson, C.N. (1955). Parkinson’s Law. The Economist.
  • ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン 『小さなチーム、大きな仕事——37シグナルズ成功の法則』