ついプレイヤーの仕事をしてしまう

マネージャーになっても、ついプレイヤーの仕事をしてしまう。

自分がやった方が早い。プレイヤーの仕事の方が楽しいし得意だ。部下に任せるのが不安で、自分でやってしまう。「背中で語る」という言い訳もできる。人が足りなくて、自分もプレイヤーをやらざるを得ない場面もある。

プレイヤーに引き戻される理由は一つではない。効率、動機、不安、構造。四方向から力が働いている。

ピーターの法則

教育学者のローレンス・J・ピーターは、「人は自分の無能レベルまで昇進する」と指摘した。優秀なプレイヤーは昇進する。しかし、プレイヤーとして優秀なことと、マネージャーとして優秀なことは違う。昇進した先で求められるスキルが変わるのに、同じやり方を続けてしまう。

ただ、「無能になる」というのは言い過ぎだと思う。実態は、プレイヤーとしての能力が高いからこそ、そちらに引き戻されるということだ。マネージャーの仕事より、プレイヤーの仕事の方が成果が見えやすい。手を動かせば形になる。調整や育成は、成果が出るまでに時間がかかる。

プレイヤーに戻る理由は正当に見える

厄介なのは、プレイヤーの仕事をやる理由がどれも正当に見えることだ。

「自分がやった方が早い」は事実であることが多い。部下に任せれば時間がかかるし、品質も心配だ。自分でやれば確実に終わる。短期的には正しい判断だ。

「背中で語る」もメリットがある。特に新しく入った人からすると、マネージャーが手を動かしているところを見ると安心する。この人は口だけではない、とわかる。信頼の構築につながる。

人が足りないのは自分の責任ではない。構造的にプレイヤーを兼ねるしかない状況もある。

どれも間違っていない。でも、全部を受け入れていると、マネージャーの仕事が後回しになる。

後回しになるもの

プレイヤーの仕事は緊急で目に見える。マネージャーの仕事は緊急ではないが重要だ。

育成に時間を割けない。チームの方針や仕組みづくりが進まない。自分が忙しすぎて、部下の状況が見えなくなる。結果として、部下が育たないから自分がやるしかない、という悪循環に入る。

自分がプレイヤーの仕事を抱えるほど、部下の成長機会を奪っている。部下が成長しないから、また自分がやることになる。いつまでも手放せない。

完全に分離するのは現実的ではない

では、プレイヤーの仕事を完全にやめるべきか。理想はそうかもしれない。でも、現実的ではないと思う。

中間管理職やその下のレイヤーでは、プレイヤーを兼ねることが求められる。人が足りなければ自分もやるしかない。マネジメントのスタイルも人それぞれで、全員が同じやり方をする必要はない。

大事なのは、プレイヤーの仕事をやることが悪いのではなく、それによってマネージャーの仕事を後回しにしていないかを意識することだ。

「自分がやった方が早い」は短期的には正しい。でも、それを続けた結果、半年後に部下が育っていないなら、長期的には間違っている。目の前の効率を取って、長期的な成長を失っている。

どこに時間を使っているかを振り返る

具体的な対策は、自分の時間の使い方を定量的に把握することだ。

先週、自分はどれくらいプレイヤーの仕事をしていたか。マネージャーの仕事にどれくらい時間を使えていたか。感覚ではなく、実際に記録してみるといい。体感では「半々くらい」と思っていても、記録するとプレイヤーが8割ということがある。

もう一つ大事なのは、上司とプレイヤーとマネージャーの時間配分の目安を合意しておくことだ。「マネージャーの仕事に最低でも週の3割は使う」のような目安があれば、自分の時間の使い方を振り返る基準になる。目安がないと、プレイヤーに偏っていても気づけない。

完全にプレイヤーをやめる必要はない。でも、マネージャーの仕事がゼロの週が続いているなら、それは危険信号だ。プレイヤーに引き戻される力は常に働いている。意識的にマネージャーの時間を確保しなければ、自然とプレイヤーに偏る。

マネージャーの仕事を後回しにしていないだろうか。

「自分がやった方が早い」は、半年後も正しいだろうか。

月曜から試せるヒント

1. プレイヤーに引き戻される力は四方向から働いている

自分がやった方が早い、得意で楽しい、部下に任せるのが不安、人が足りない。どれも正当な理由だが、全部受け入れるとマネージャーの仕事が後回しになる。部下が育たず、いつまでも自分がやる悪循環に入る。

2. 時間の使い方を記録して、上司と目安を合意する

感覚ではなく記録する。体感と実態はずれている。上司とプレイヤー・マネージャーの時間配分の目安を合意しておけば、振り返りの基準になる。マネージャーの仕事がゼロの週が続いていないか確認する。

もう少し深く知りたい人へ

ピーターの法則は、教育学者のローレンス・J・ピーターとレイモンド・ハルが1969年に出版した同名の著書で提唱された。原著はユーモアを交えた風刺的な書き方で、「組織のすべてのポストは、その責務を果たせない人で埋まる傾向がある」と述べている。当初は半ば冗談として受け取られたが、その後の研究で実際にこの傾向が確認されている。

2018年にベンソンらが発表した論文では、米国の大手企業の営業部門のデータを分析し、営業成績が高い社員ほど管理職に昇進する傾向がある一方で、営業成績とマネジメント能力には相関がないことを示した。むしろ、営業成績が高い人がマネージャーになると、その部下のパフォーマンスが低下する傾向すら見られた。プレイヤーとして優秀であることが、マネージャーとしての適性を意味しないことを統計的に裏付けた研究だ。

本文で触れた「自分がやった方が早い」問題は、マネジメント研究では「デリゲーションの失敗」として知られている。ユルゲン・アペロは「デリゲーションポーカー」という手法を提案し、権限委譲を7段階(「指示する」から「完全に委任する」まで)に分けている。完全に任せるか自分でやるかの二択ではなく、段階的に権限を移していくという考え方だ。

また、本文で触れた「部下が育たないから自分がやる悪循環」は、マネジメントの文脈では「能力の罠(competency trap)」とも呼ばれる。自分が得意なことをやり続けることで短期的な成果は出るが、組織としての学習や成長が阻害される。個人の能力に依存した組織は、その個人がいなくなった瞬間に機能しなくなる。

参考文献

  • ローレンス・J・ピーター、レイモンド・ハル 『ピーターの法則——創造的無能のすすめ』
  • Benson, A., Li, D., & Shue, K. (2019). Promotions and the Peter Principle. The Quarterly Journal of Economics, 134(4), 2085-2134.