途中からプロジェクトに参加した

あるプロジェクトに、途中から参加することになった。

すでに何度も会議が行われていて、過去の議事録がいくつも残っていた。まずはこれを読んでキャッチアップしよう。そう思った。

議事録を読んでも、わからない

議事録を読み始めて、すぐに困った。

登場人物が多い。部署も違えば、役職も違う。誰が何の立場で発言しているのかがわからない。しかも、会ったこともない人たちだ。名前を見ても顔が浮かばない。「田中さんが〇〇と言った」と書いてあっても、その田中さんがどんな立場の人なのかがわからない。

メモを取りながら整理しようとした。でも、分量が多くて追いつかない。途中で誰が誰だかわからなくなる。時間ばかりかかって、全体像が見えてこなかった。このままでは間に合わない。そう思った。

AIに整理を頼んだ

試しに、AIに頼んでみた。

「この議事録の登場人物を整理して。それから、要約もお願い」

すると、こんな形で返ってきた。

  • 登場人物の一覧 (名前、部署、役割)
  • 議論の流れの要約
  • 誰が何を主張していたか

これを先に見てから議事録を読むと、格段に理解が早くなった。

「田中さん」が出てきても、「ああ、営業部の人で、このプロジェクトでは〇〇の立場ね」とすぐにわかる。議論の流れも頭に入っているから、細かいやり取りの意味も理解しやすい。

でも、それだけでは足りなかった

AIのおかげで、議事録の理解は早くなった。

でも、それだけではわからないこともあった。

AIの出力が一般的すぎて、参考にならないこともあった。プロジェクト固有の文脈や、社内特有の用語は、AIにはうまく拾えない。

それ以上に困ったのは、文字に残っていないことの方が多かったことだ。

たとえば、ある会議で方針が大きく変わっていた。議事録にはその結論だけが書かれていた。でも、なぜ変わったのかがわからない。後で聞いたら、会議の直前に別の場で話があり、その場の空気で流れが変わったのだという。議事録には載らない話だ。

関係者の間の力学もそうだった。議事録ではある提案に対して、賛成と反対が分かれたとしか読めなかった。でも実際には、反対した人と提案した人の間には過去の経緯があり、この議論はその延長線上にあったらしい。それを知らずに次の会議に出ていたら、地雷を踏んでいたかもしれない。聞いたとき、「先に教えてもらえてよかった」と本気で思った。

議事録に書かれているのは「何が決まったか」だ。でもプロジェクトを理解するには、「なぜそう決まったのか」「誰と誰がどういう関係なのか」「文字にならなかった空気」が必要になる。これらは文書には残らない。人の頭の中にしかない。

結局、人に会って話を聞くことで、ようやく全体像が見えてきた。

AIは準備を助けてくれる

振り返ると、AIは「準備」を助けてくれた。

議事録を読む前に、登場人物と流れを把握しておく。それだけで、読む時間が短くなる。人に会って話を聞くときも、事前に整理ができていれば、より深い質問ができる。

ただ、AIだけで完結するわけではない。最後は人に会うこと、話を聞くことでしかわからないこともある。もちろん、どこまでAIに渡せるかは組織のルール次第だ。

途中から参加したプロジェクトで、過去の資料を読んで追いついた気になっていないだろうか。

人に会わないとわからないことは、意外と多い。

月曜から試せるヒント

1. 途中参加のプロジェクトは、まずAIに整理させる

過去の議事録や報告書を渡して、「登場人物と要約をお願い」と頼む。それだけで、キャッチアップの時間が短くなる。

2. AIの整理をもとに、人に会う

AIで準備して、人に会って深掘りする。どちらかではなく、両方を組み合わせる。

もう少し深く知りたい人へ

本文で触れた「議事録を読んでもわからない」という現象は、知識経営論における「暗黙知」と「形式知」の区別で説明できる。「暗黙知」はもともと哲学者マイケル・ポランニーが提唱した概念で、「人は言葉にできるより多くのことを知っている」という洞察に基づく。野中郁次郎と竹内弘高はこれを経営学に応用し、知識には言語化・文書化できる「形式知」と、経験や文脈の中にあり言語化しにくい「暗黙知」があると論じた。

議事録は形式知の典型だ。決定事項、発言内容、アクションアイテム。文字として残る情報は整理しやすいし、AIも扱える。しかし、「なぜその決定に至ったか」「誰と誰の間にどんな力学があるか」「会議の空気はどうだったか」といった暗黙知は、文書には残らない。

野中らのSECIモデルでは、暗黙知は「共同化」——同じ経験を共有すること——によって伝達されるとされている。本文で「人に会って話を聞くことで、ようやく全体像が見えてきた」と書いたのは、まさにこの共同化のプロセスだ。AIは形式知の整理には強いが、暗黙知の獲得を代替することはできない。

途中参加者が直面する困難は、形式知だけが手元にあり、暗黙知が欠落している状態だと言える。AIで形式知の処理を効率化し、空いた時間で暗黙知を獲得する——本文で紹介したアプローチは、この2つの知識を意識的に使い分ける方法と言える。

参考文献

  • 野中郁次郎・竹内弘高 『知識創造企業』
  • マイケル・ポランニー 『暗黙知の次元』