静かなチームは「うまくいっている」のか

チームに目立ったトラブルがない。1on1でも「特に問題ないです」と返ってくる。会議も淡々と進む。

一見、順調に見える。でも後になって、実は問題を抱えていたとわかることがある。「もっと早く言ってくれれば」と思う。当時の私は、相談が遅いのはメンバー側の課題だと考えていた。報連相が足りない、もう少し早く共有してほしい、と。

でも最近、心理的安全性という概念をあらためて考える機会があり、振り返ってみた。相談が遅かったのは、メンバーの問題ではなく、自分が作っていた「場」の問題だったのかもしれない。

報連相とは別の話

心理的安全性とは、「このチームでは率直に発言しても罰されない」と感じられる状態のことだ。ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・エドモンドソンが提唱した概念である。

ここで注意したいのは、報連相とは別の話だということだ。報連相は義務としての情報共有であり、ルールや仕組みで担保できる。心理的安全性が関わるのは、もう少し手前の情報だ。「まだ問題にはなっていないけど、ちょっと気になること」「この程度で相談していいかわからないこと」。義務ではないけど、共有された方がチームの質が上がる情報。それが自然に流れてくるかどうかが、心理的安全性の有無を分ける。

「問題がない」のではなく「見えていない」

振り返ると、自分のチームに明確な問題があったわけではない。大きなトラブルはなかったし、チームは回っていた。

でも、兆候はあった。1on1は事務的だった。進捗を確認して、「特にないです」で終わる。相談が来るタイミングは遅かった。問題が小さいうちには来ず、大きくなってから報告が上がる。自発的な共有——「こういうやり方を試してみた」「この案件で気づいたことがある」といった、義務ではない情報——も少なかった。

象徴的だったのは、あるメンバーとのやり取りだ。ある案件で問題が表面化した後、聞いてみると「実は前から気になっていた」という。なぜ1on1で言わなかったのか。返ってきた答えは「まだ考えがまとまっていなかったので」だった。

この一言で気づいた。メンバーは「ちゃんとした相談」にしないと持っていけないと感じていたのだ。「まとまっていないんですけど」で持ってきていいはずなのに、それができなかった。相談のハードルが、自分が思っていたよりずっと高かったのだ。

「問題を感じていなかった」こと自体が問題だった。情報が来ないから、問題が見えない。問題が見えないから「順調だ」と思う。静かなチームを、うまくいっているチームだと勘違いしていた。

忙しそうな上司には相談しにくい

なぜ相談のハードルが高かったのか。後から聞いた話や、自分自身の性格を踏まえると、思い当たることが二つある。

一つは、自分が忙しそうに見えていたことだ。これは後からメンバーに言われた。実際に忙しかった。複数の案件を抱えていて、自分の仕事に追われていた。「いつでも相談して」と口では言っていた。でも、忙しそうにしている人に「いつでも相談して」と言われても、相談しにくい。ましてや「まだまとまっていない、ちょっと気になる程度のこと」なら、なおさらだ。「この程度のことで忙しい人の手を止めていいのか」と思えば、黙っておくのが合理的な判断になる。

もう一つは、相談を受けたときにすぐ答えを出す癖だ。これは自分でも自覚がある。メンバーが「ちょっと気になっていることがあるんですが」と言いかけた瞬間に、「それならこうすればいいよ」と返す。悪気はない。早く解決してあげたいと思っていた。でもこれが繰り返されると、「相談しても自分で考える余地がない」と感じるかもしれない。

ただ、ここは頃合いが難しい。すぐ答えを出さずに待てば、メンバーが自分で考える機会になる。でも「相談しても何も返ってこない」と思われたら、やはり相談は減る。

いずれにせよ、自分では「話しやすい雰囲気を作っている」と思っていた。でも、それは自分の認識であって、相手の体験ではなかった。

「待つ」のではなく「取りに行く」

「こうすれば解決する」という答えはまだ持っていない。ただ、いくつか意識して変えていることがある。

一つは、自分から話しかけに行くことだ。以前は「いつでも相談して」と言って待っていた。でも、待っているだけでは来ない。忙しそうに見えている上司のところに、部下からわざわざ来るハードルは高い。だったら、自分が行けばいい。長い時間は要らない。席の近くを通りがかったときに「あの件、どんな感じ?」と声をかける。それだけで、「この人は話しかけても大丈夫だ」というシグナルになる。「いつでも相談して」は言葉だ。自分から話しかけに行くのは行動だ。行動の方が伝わる。

もう一つは、「何か困っていることは?」という聞き方をやめたことだ。この質問は抽象的すぎる。聞かれた方は「特にないです」としか答えようがない。特に、まだ問題になっていない段階の「ちょっと気になること」は、この質問では引き出せない。代わりに、具体的に振るようにしている。「あの案件の○○、ちょっと難しくなかったか?」「先週のあれ、その後どうなった?」。具体的な問いには、具体的な答えが返ってくる。そこから「実は…」と話が広がることもある。

これが正解かはわからない。ただ、「相談して」と待つよりも、自分から取りに行く方が、情報は早く来るようになった実感はある。

あなたのチームで「問題ないです」と言われたとき、それは本当に問題がないのだろうか。

そして、相談しやすい雰囲気は、相手から見てもそう見えているだろうか。

月曜から試せるヒント

1. 「問題ないです」は、問題がないとは限らない

情報が来ないから問題が見えない。問題が見えないから「順調だ」と思う。静かなチームは、うまくいっているチームとは限らない。

2. 「相談して」と待つのではなく、自分から取りに行く

自分から話しかけに行く。「何か困っていることは?」ではなく「あの件、どうなった?」と具体的に振る。言葉で「オープンにしている」と言うより、行動で示す方が伝わる。

もう少し深く知りたい人へ

心理的安全性を提唱したエイミー・エドモンドソンは、病院の医療チームを対象にした研究で興味深い発見をしている。心理的安全性の高いチームほど、ミスの報告件数が多かったのだ。一見すると「安全なチームほどミスが多い」ように見える。しかし実際には、ミスの発生率が高いのではなく、ミスを報告できる環境が整っていた。心理的安全性が低いチームでは、ミスは起きていたが、報告されていなかった。

この研究は、本文で触れた「問題を感じていなかった」状態の危うさを裏付けている。問題が見えないのは、問題がないからではなく、見える仕組みがないからかもしれない。

また、従業員が問題を知っていても黙る現象は、モリソンとミリケンによって「組織的沈黙 (Organizational Silence)」として体系的に研究されている。彼女らによれば、沈黙は個人の性格の問題ではなく、組織の構造が生むものだ。「上司が忙しそう」「この程度で報告していいかわからない」「言っても変わらない」——こうした認識が積み重なると、組織全体に「言わない方が安全だ」という暗黙の規範ができあがる。

本文で触れた「まだ考えがまとまっていなかったので」という言葉は、この組織的沈黙の一つの現れと言える。メンバーが「まとまってから持っていくべき」と感じているのは、個人の判断というより、「不完全な状態で相談してはいけない」という暗黙の規範が存在していたことを示唆している。モリソンとミリケンは、こうした規範は上司が意図的に作るものではなく、日常のやり取りの積み重ねで形成されると指摘している。忙しそうにしている上司、すぐ答えを出す上司——その一つ一つが「完成品を持ってこい」というメッセージとして受け取られうる。

参考文献

  • エイミー・C・エドモンドソン 『恐れのない組織——「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす』
  • Morrison, E. W., & Milliken, F. J. (2000). Organizational Silence: A Barrier to Change and Development in a Pluralistic World. Academy of Management Review, 25(4), 706-725.