全部自社でやろうとしていた

教育・研修の内容を、基本的なところから全て内製しようとしていたことがある。

一般的なビジネススキルの研修も、社内の業務に特化した研修も、全部自分たちで作る。自社のことは自社が一番わかっている。だから自分たちで作るべきだ。そう考えていた。

でも、結局どれも微妙だった。一般的な内容は、教え方のノウハウが足りない。社内特化の内容は、時間を取られて中途半端になる。全部やろうとして、全部が80点に届かない状態だった。

一般的な部分は外注した

見直した結果、一般的な内容は外注することにした。ビジネススキルやマネジメントの基礎のような、どの会社でも共通する部分は、専門の研修会社の方がクオリティが高い。教え方のプロが作ったコンテンツには、内製ではかなわない。

費用は発生した。でも、スピーディーに進めることができた。内製で時間をかけて微妙なものを作るより、外注で質の高いものを早く導入する方が、トータルで見れば効率的だった。

社内に特化した部分——自社の業務プロセス、社内システムの使い方、過去の案件から得たノウハウ——は内製のままにした。これは外部にはできない。自分たちの経験に基づく部分だからだ。

バリューチェーン

マイケル・ポーターは、企業の活動を「バリューチェーン(価値連鎖)」として分解することを提唱した。原材料の調達から最終的な顧客への提供まで、一連の活動を分解し、どこで価値を生んでいるかを分析する。

この考え方は、企業の事業戦略だけでなく、チームや部門の仕事にも応用できる。自分たちの仕事を分解して、どの部分が本当の強みで、どの部分は外部の方が優れているかを見極める。

研修の例で言えば、一般的な教育コンテンツの作成は自分たちの強みではなかった。強みは、社内の業務に精通していること、過去の経験をもとに実践的な内容を設計できることだった。強みでない部分を手放すことで、強みに集中できるようになった。

全部やることが「強い」わけではない

全部自社でやることが、必ずしも強さではない。むしろ、強みでない部分を抱え続けると、リソースが分散して、強みの部分まで品質が落ちる。

外注するのは「できない」からではなく、「やらない方がいい」からだ。自分たちよりうまくできる人がいるなら、任せた方がいい。その分、自分たちにしかできないことに集中できる。

ただ、規模が大きくなったり、継続的に必要になる場合は、内製に戻してトータルコストを抑える判断もある。外注か内製かは固定的な答えではなく、規模やフェーズに応じて見直すものだ。

「何をやらないか」を決める

この経験を通じて意識するようになったのは、「何が自分たちの強みか」を明確にすることの大事さだ。

強みを定義するのは、言い換えれば「何をやらないか」を決めることでもある。全部やろうとすると、強みが見えなくなる。やらないことを決めることで、やるべきことが浮かび上がる。

「何をやるか」を決めるのは比較的簡単だ。やりたいこと、やるべきことは次々に出てくる。でも「何をやらないか」を決めるのは難しい。できることを手放すのには抵抗がある。「自分たちでもできるのに」と思ってしまう。でも、できることと、自分たちがやるべきことは違う。

あなたのチームが「全部やろうとしている」ことの中に、外部の方がうまくできることはないだろうか。

そして、自分たちにしかできないことに、十分なリソースを割けているだろうか。

月曜から試せるヒント

1. 強みでない部分を手放すと、強みに集中できる

全部自社でやることが強さではない。自分たちよりうまくできる人がいるなら任せる。その分、自分たちにしかできないことにリソースを集中させる。

2. 「何をやらないか」を定期的に見直す

外注か内製かは固定的な答えではない。規模やフェーズに応じて見直す。「できること」と「やるべきこと」は違う。やらないことを決めることで、やるべきことが浮かび上がる。

もう少し深く知りたい人へ

バリューチェーンの概念は、マイケル・ポーターが1985年の著書『競争優位の戦略』で提唱した。ポーターは企業の活動を「主活動」(購買物流、製造、出荷物流、販売・マーケティング、サービス)と「支援活動」(全般管理、人事管理、技術開発、調達活動)に分類し、各活動がどのように価値を創出しているかを分析するフレームワークを示した。

バリューチェーン分析のポイントは、すべての活動を均等に重視するのではなく、競争優位の源泉となる活動を特定し、そこにリソースを集中させることだ。本文で触れた「一般的な研修は外注、社内特化は内製」という判断は、バリューチェーンの中で自社が価値を生む部分と、そうでない部分を切り分けた例と言える。

「何をやらないか」の判断は、戦略論では「戦略的フォーカス」として議論される。ポーター自身も「戦略の本質は、何をやらないかを選ぶことにある」と述べている。すべてをやろうとする企業は、どの活動でも中途半端になりやすい。これを「スタック・イン・ザ・ミドル(中途半端な状態に陥ること)」と呼ぶ。

本文で触れた「規模が大きくなれば内製に戻す」判断は、取引コスト理論で説明できる。外注には取引コスト(交渉、契約管理、品質管理)がかかる。規模が小さいうちは外注の方が効率的だが、規模が大きくなると内製の方がトータルコストが低くなることがある。

参考文献

  • マイケル・ポーター 『競争優位の戦略』